8月19日~23日までの5日間の夏休みの体験的社会科研修日記 11

最後にMOA美術館を訪れた。

今回の研修旅行でいちばん印象に残ったのがこの美術館である。

熱海の見晴らしの良い山の斜面につくられ、

しかも巨大で洞窟探検気分の薄暗いトンネルの中に

設置されたエスカレーターをいくつも乗り継いで、

まるで天空に向かって上昇していく気分だ。

まわりをよく観察してみると、

ここは建物自体が、洗練され、全体が真新しい芸術品のように見える。

 

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天空に上昇気分のエスカレーター

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建物やオブジェ自体が芸術品のMOA美術館   2019年8月撮影

 

エスカレーターの終着点からは、

立体感のある展示室がうまく区画され、

広く、明るい空間が広がる。

展示用の作品も『国宝3点』、豊臣秀吉の『黄金の茶室』の復元模型、

能楽堂まであり近世、近代の貴重な美術品が目白押しである。

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  黄金の茶室                   能楽堂    2019年8月撮影

 

しかしなんといってもこの美術館の目玉、

教科書にも載っている『紅白梅図屏風』の実物(国宝)は

梅の咲く時期限定で今回は鑑賞できないことがわかった時は

本当にショックだった。

 

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紅白梅図屏風」MOA美術館パンフレット上部に載っている写真

 

ところが、光琳の作品でもう一つ有名な国宝『燕子花図屏風』

(東京原宿表参道エリアにある根津美術館所蔵)の絵が

群青色と緑青のたった二色だけで燕子花の群落を生き生きと表現、

隣接する美術館の庭園に咲く燕子花と一緒に

10年前の5月に鑑賞できたときの感動シーンがなぜか蘇ってきて、

「次は梅の咲く頃」と何度も心の中でつぶやいてしまった。

 

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根津美術館 日本庭園 燕子花           根津美術館  2009年5月撮影 

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『燕子花図屏風』 右隻

角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 10 2ページより

ところでこの学習まんがは中学生が興味持てる視点から

わかりやすく歴史的事象が描かれていてかなりのおすすめです

 

外に出ると雨も上がり、前面に、相模灘の大海原が見渡せ、

真鶴半島や、初島、熱海の鮮やかなシーサイドラインも良く見える。

 

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熱海のオーシャンブルーの大海原  2009年8月撮影

 

真鶴は神奈川県で熱海は静岡県、ちょうど県境に近いところ

(市民生活に与える影響が気になる)にあるということをふと思い出しながら

この大パノラマの展望を楽しんだ後、

心地よい潮風にさそわれるようにすぐ下にある

尾形光琳の復元された屋敷や庭園を見学した。

とても質素で風流な生活を偲ばせるが、

光琳が一体どのような人生を送ったのか気になりだし

伝記を読みたくなった。

このように熱海の美しい海の景観を借景にして、

和風、現代風の美的感性を磨くことができる

MOA美術館はその優れた数々の美術品とともに

社会科教師にとっては最適な研修場所の一つではないかと思う。

 

8月19日~23日までの5日間の夏休みの体験的社会科研修日記 12

8月23日(金)  午前5:30自宅発~自宅着午後7:30  

熱海⇒横浜⇒川崎

横浜の巻

 

次の目的地は横浜である。

桜木町駅前から横浜を周遊する赤色の観光バスがあり

 

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桜木町駅前 横浜市内周遊バス あかいくつ  2019年8月撮影

このバスに乗車して「赤レンガ倉庫」前で下車する。

 

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救命ボートが見える?

 

横浜港 豪華客船 ダイヤモンドプリンセス号(新型コロナ感染前)2019年8月撮影

 クルーズ船の人気が年々高まり、寄港回数2014年まで横浜港は1位だった。現在4位

 博多港が1位(中国を中心とするアジア方面の旅客が急増したことによる)

 

目の前に巨大な豪華客船が停泊していて早速その全景を写真に収めた。

水深が深くないとこのような巨大な船は港に入ることができない。

(ペリー黒船サスケハナ2450トン、豪華客船11万5875トン)

これは授業の導入部分で使えるかな。

赤レンガ倉庫は横浜の観光スポットで一番人気があり、

倉庫の中はショッピングモールになっていて

とても混んでいた。

ところで赤レンガ倉庫はもともと何のために使用されたか

知らない若者が多いのではないか。

 

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赤レンガ倉庫と歴史を感じさせる重厚な煉瓦   2019年8月撮影

 

 

出入り口の薄暗い一角の古びた重厚なレンガ一つ一つに

港町横浜の歴史が潜んでいる。

(世界最大の輸出品の生糸が

富岡製糸場などの養蚕・製糸業がさかんな地域から運び込まれ

、倉庫の中に見渡す限り山と積まれ、外貨獲得に貢献した)

 

このような観光スポットは歴史的な名所となっているところも多い。

これから先、観光旅行するとき、観光名所の下調べ、

旅行後も気になったことを調べるようにすれば、

知的好奇心が刺激され、新しい発見や

より深い感動が得られるようになることを生徒に気づかせたい。

次に日本大通りにある横浜開港資料館

(敷地内は日米和親条約の締結交渉が行われ、

周辺は築地や神戸と同じように外国人居留地があったところ)を訪れた。

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横浜開港資料館 日本はこの敷地内で1854年ペリーと日米和親条約を結び   2020年7月撮影
        下田、函館を開き、鎖国をやめ開国した

 

 

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日本大通り この通りをはさんで左側が外国人居留地

右側が日本人の住宅地だった。    2019年8月撮影

 

ペリーが来航してからの横浜の発展の様子が

貴重な写真や地図などの展示物をもとに興味深く、わかりやすく説明してある。

新学習指導要領には

「近代国家の基礎がととのえられていった過程と人々の生活の変化を理解させる。」

とあるが江戸時代農業国だった日本がどのようにして短い期間に

近代国家、工業国へと成長できたのかの原点が開港期の横浜にあるということを

あらためて実感させてくれる貴重な資料館である。

かつてさびしい漁村だった横浜の地に

外国人居留地ができてからの発展がめざましい。

洋館が増え、外国人の商人や貿易関係の業者がどのような生活を送り、

日本人と交流していたかの資料を入手。

そして『横浜の歴史あれこれQA』を購入する。

 

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今や大阪を抜いて370万人の大都市に成長、発展をとげた秘密をもっと探りたくなり、

関係資料を地下の閲覧室でカラー、白黒合わせA3版で20枚ほど入手できた。

そのあと中華街まで歩く、

神戸の中華街に比べて横浜の中華街は大きく堂々としている。

神戸と同じ元町という地名があるのも興味深い。

神戸も横浜も同じ港町から発展した大都市である。

 

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 元町・中華街駅  地下鉄             横浜中華街 入り口   2020年7月撮影

 

8月19日~23日までの5日間の夏休みの体験的社会科研修日記 13


様々な点から比較することによって共通点や相違点がいろいろと見えてきそうだ。

この港町の中をそぞろ歩く時間がないのが惜しい。

そのまま地下鉄の元町・中華街駅からみなとみらい線を利用して

  

川崎の巻

今日最後の目的地、川崎市武蔵小杉駅へと向かう。

乗車時間は20分程だった。

多摩川沿いに再開発がめざましい武蔵小杉の駅周辺のエリアは

タワーマンションが林立し、駅前も目抜き通りに沿って、

真新しく、垢抜けした雰囲気の商業施設が軒を並べている。

それらを目の当たりにしてとても驚く、こんなに変貌してしまって、

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武蔵小杉駅前  2019年8月撮影  

あの水害がなかったときの駅前に林立するタワーマンション

川崎市は神戸より人口が多くなったいうのに

小さい日本地図(例えば世界地図の中の日本列島)には川崎の都市名が表示されていないものが多い。

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もちろん川崎がしっかり載っている地図もあります。

新しい社会地図 東京書籍  帝国書院の地図にも載っていました。

 

武蔵小杉に長い間くらしている住民がどう思っているか

ということがとても気になる。

薄暮となった。路地裏の昔ながらの中華料理店に入り、

焼き餃子を注文した。

「20数年前JR南武線東横線しかありませんでした。

今は多くの路線が乗り入れてとても便利になりました。」と

変貌のきっかけやそのようすなどを店員が話してくれた。

横浜市に最接近する川崎市の目覚ましい発展(神戸市より人口が多くなった。)

をこの武蔵小杉から少し垣間見ることができた。

 

「生活者の視点から生きた知識を創る体験的社会科研修」とは何か 1

次に今回の実践報告書のテーマで研修の最大の特色でもある

「生活者の視点から生きた知識を創る体験的社会科研修」とは何か、

その意義や授業づくりへの活用方法などについてもう少し細かく具体的に説明したい。

 

研修に臨む姿勢

  • 生徒のロールモデルになろうとする意識を持つ(生徒の模範になる)
  • 知れば知るほど自分は無知であるという自覚を持つ(生徒と一緒に学び続ける)

 

生活者の視点とは

生活者の視点とは人間の営みや人々のくらしにスポットをあてることである。

地理的分野で言えば自然条件によって左右される

その地域ならではの生活のようすや衣食住に注目する。

なかでも「食」に関しては農業や漁業の生産地域との関係が深く、

具体的事例、実物教材を通して

私たちの生活にとって身近なものとしてとらえやすくなる。

「住」に関しては「住みやすさ」「便利さ」の視点が大切なポイントとなる。

(各都市に人口が集中し、発展していくようすを見る。)

歴史的分野で言えば、生活者の視点がいかに大切かの

いちばんわかりやすい例を示してくれるのが

『江戸のリサイクル社会』である。

ここには日本の将来の生活の姿はどうあるべきかの

豊富なヒントがちりばめられている。

 

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江戸リサイクル社会における

江戸の人々の貧しくても豊かな暮らしぶりを

授業でも使える豊富な事例を交えながらわかりやすく解説

かなりのおすすめ本です。【小学館新書】

 


また、その時代の人々のくらしのなかで

特徴的な衣食住の生活や経済、流行している趣味、娯楽、信仰、生活文化に光をあてる。

例えば江戸の庶民が美しい浮世絵を求め、

歌舞伎役者の派手な衣装で着飾った洗練された演技に憧れたりすることも含まれる。

 

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歌舞伎「助六」あでやかな衣装の女形   2009年10月撮影 江戸東京博物館


このような人々の喜怒哀楽の生活のようすや時代の移り変わりとともに

生活が変化するようすにも着目しながら、

過去の人々の生活から

日本の将来をどのような社会にしていったらよいかのヒントや教訓を

具体的に探っていくようにする。

さらに生徒に歴史的偉人が送った少年時代、青年時代の生活にふれることにより

その人物により親近感が湧き、

その生き方を自分にあてはめて考えるようになる。

こうして生活者の視点からアプローチすることによって

現在の私たちの生活との結びつきや違いをはっきりさせながら、

生徒自身の問題として興味をもたせること

ができるようになり、

やがて未来志向でものごとをとらえることが大切なことだということがわかってくる。

 

生きた知識とは

1)その知識を得ることによって面白さを感じ、学問的探究心にもつながる知識。

2)日常生活と結びつき、生活実感を大切にする知識。

3)将来の社会生活に役立つ知識。

4)未知の世界を知ることによって驚きや喜びを感じとれる知識。

暗記的知識でない生きた知識を習得する授業は面白い。

   また生活者の視点から生きた知識を習得し、

これから先「社会の一員としてどのように生きていけば良いか。」

さらに新旧の学習指導要領でも強調されている

「社会で生きて働く知識」、「市民性の育成」、「生涯学習

そして「社会参画」へとどのようにしてつなげていけるのかを

常に意識しながら研修をすすめていくように心がけている。

生活者の視点から「生きた知識を創るための体験」とは

 上にあげた生活者の視点を意識しながら次の5つのことを必ず念頭に置いて

私は「生きた知識を創るための体験を重視する」研修及び教材の発掘をおこなっている。

 

 1.授業で使える資料を収集する。

博物館や資料館では必要であればガイドブックを購入する。

閲覧室や図書室がある場合は関連する資料の中で

授業に使えそうなものがあったらコピーする。

(文献資料、絵画資料、近現代史に関しては良質な写真資料が多い。

絵画資料や写真資料は直感的な発見や生活実感をともなうものが多いので

生徒の発言を引き出させやすい。)

無料で入手できるパンフレットなど

現地で印象に残った景色、建造物、文化財(撮影OKのもの)を写真撮影する。

  

心に留めておきたいこと

・インターネットの検索による資料活用は効率的で便利だが、

その情報・知識は玉石混交である。  

自分が現地に足を運んで苦労して得た資料と

その活用は安心感と手作り感がある。

   

2.見学と観察

「生活者の視点」を意識しながら史跡や名所などをめぐるときは

必ず五感を使って、

教師の目線ではなく、好奇心旺盛な中学生の目線

(生徒と一緒に学習するような感覚)で見学するようにする。

観察とは比較する点、共通点、相違点などをはっきりさせ、

遠くや近くから社会的事象や見学対象の事物、建物や景色、

地域住民の行動などを注意して見ることである。

 

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2010年撮影 隅田川築地付近からとった水辺の景観

左手奥に見える高層ビルが大川端リバーシテイの先端にあたる

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2009年東京湾漁業視察研修 築地から少し先

隅田川から東京湾へつながる運河からみた水辺の景観

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大川端リバーシティ21

近くに佃島があり松平定信寛政の改革で実施された

「人足寄場」があったところでもある。「大川」は隅田川

江戸時代に使われていた名称。

あとで地図を見ながら経路をたどりながら

「水の都」でもあった江戸時代のころのようすがリアルに

頭に浮かんでくるように資料を調べるようにする。

 

 特に史跡関係は想像力が欠かせない。

過去と現在の姿を比較し、

その経過をたどることによって見えてくるものを大切にしたい。

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歌舞伎座(東銀座):老朽化し2009年撮影→ 高層耐震建築の「新歌舞伎座」へと生まれ変わる 2020年7月撮影

ここは江戸時代の芝居小屋(森田座)があったところに近い。その周辺銀座や日本橋のようすが

JIN「仁」の映画ではないが江戸の人々の生活の様子とともにリアルに頭に浮かんでくるように資料を調べるていくようにする。 ちなみに築地はここから徒歩約10分の至近距離にある。

 

印象に残った事象・対象物は必ず写真撮影し、

授業中にA4版に印刷した写真を適宜見せ、

上記の博物館で入手した視覚資料とともに

体験談を交えながら1~2分以内で説明できるようにしておく。

 

 必ず実践すること

 ・見学地に関する事前事後の学習・研究(教材作りに欠かせない過程)

・・・続く

 

 

 

「生活者の視点から生きた知識を創る体験的社会科研修」とは何か 2

 

3.聞き取りを重要視する

昭和59年に私は夏休みの研修で

三浦半島の農業に関する地域調査をしたことがある。

三浦半島の農業の特色は沖合に黒潮が流れ、

その温暖な気候(12月の平均気温は九州の宮崎市とほぼ同じ)を

利用して年三作(同じ土地に夏にスイカ、秋から冬にかけて大根、

冬から春かけてキャベツを栽培する。)の輪作で有名だった。

ある農家は、8月の台風でスイカ畑が直撃を受け、

商品にならないようなたくさんのスイカの実を目の当たりにしながら

農家の方は暗い表情を見せることなく、

聞き取りに応じてくれた。

その結果、スイカ(裏作)がだめでも

大根、キャベツがあるということがわかり、

農業従事者に対して市場へ出荷する生産者としての立場だけではなく

一農家の生活者としての顔があることを実感できた。

聞き取りはなにも地域調査や研究論文を書くために

おこなうというおおげさなものではなく、

ふと疑問に思ったことや知りたいこと、

教科書やインターネットにも載っていない生の最新情報や生きた知識を

地元の生活者や関係機関から得て、

そこから新しい教材や授業で使えるネタを見出していくことではないかと思う。

また身近な地域の学習において、

このような一教師の聞き取り体験を実例の一つとして生徒の前に示すことができる。

 

私はこの年の冬休みの課題として、

近くの山村に行き、高齢者に過疎化に関する聞き取りを行うことにした。

人口減少の波は山間部や離島で特に激しく押し寄せている。

今回の5日間の研修において

大都市に人口が集中している傾向が顕著になっていることを

実感したが、

これから先、比較的人口が減少傾向にある大都市周辺の町や村にも

過疎化の問題が押し寄せているのではないか、

私はそれを確かめたくなり、

2020年の1月4日(土)に

東京都近郊の埼玉県飯能市の中藤地区を訪れた。

飯能駅からバスで50分ほどの山間部に集落が点在する。高齢化率が高い。)

終点のバス停を降り、

徒歩1時間20分程の山の中にある

寺院の初詣客を相手にする土産物屋の店員から

次の客が来るまでの間の約10分間、聞き取ることができた。

時程・・・飯能発8:30  中沢9:20  土産物屋 10:45~10:55

 

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飯能駅前駅ビルとロータリー            駅ビル内ファストフードの店2020年1月撮影

私の若いころまったくの田舎駅で日曜の朝はハイキング客でごったがえしていた。

 

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中沢終点バス停付近

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子の権現への標識と小さな渓谷の道

 

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  厳寒期なので道端に塩カル置き場がある     子の権現は神社ではなく天台宗の山寺 

                     神仏習合の寺院として知られる標高スカイツリー     と同じくらいの640m  2020年1月撮影

 

 

聞き取りの主な内容

・この付近はイノシシが出没。

ハンターからイノシシの肉をいただくことがある。たいへん美味しい。

・山林の材木は安くて利益が少ない。

・渓流の漁はほとんど獲れない40年前は魚がけっこうとれて売ることができた。

・山村は高齢者の一人暮らしが多い。

週に一度デリバリーがあり必要な食料を配達してくれる。

・市がバスを買い上げ運行している。

一日に4本しか運行していない。

・昔はバスの便が良かった。

生徒も学生もけっこう利用していた。

 

 

「生活者の視点から生きた知識を創る体験的社会科研修」とは何か 3

4.美的感性を磨く

日本地理の地形に関する説明をするとき、

日本は南北に細長く、国土の70%以上が山で、

火山や森林が多く、

日本の河川は短く急であるという特色を持つ。

周りが海に囲まれた島国でもあり、

複雑に入り組んだリアス海岸も多いと

表面的な説明で終わらせてしまうことがある。

しかしある時、私は(若い時私は某山岳会に所属)

夏でも白雪をいただいた雄大日本アルプス穂高連峰

槍ヶ岳そして上高地の写真を見せ、

自分の体験談を交えながらその四季折々の自然の美しさについて熱く語った。

生徒の反応がとても良かった。

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『水と緑の国、日本』富山和子 講談社 p23 苗代と北アルプス
教師にとって「美的感性を磨く」ことが大切であることを

啓蒙してくれた書 いつも私は手元に置いている。

 

以後日本の各地方を教える時は、

全国各地の美しい観光スポットの写真

(温泉、渓谷、高層湿原、森林、カルデラ湖、リアス海岸、サンゴ礁の海など)

をなるべく見せながら、

必ず体験談も織り交ぜるようにしてみた。

その効果はてきめんで、

このことがきっかけとなり多くの生徒の地理嫌いを解消することができた。

美的価値を感じる対象は日本には上記の四季折々の自然のほか、

 

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東村山市富士見町 野火止用水沿いの満開に咲き誇る桜

もう私は退職してしまったが最近、

身近な地域の四季折々のちょっとした自然の移り変わり、美しさを

生徒に気づかせることが大切だとつくづく思う!

 

 

伝統芸能、洋画、日本画、彫刻、伝統的工芸品、衣装、

建築物、庭園、アニメなど多岐にわたる。

それだけに直接現地に赴き「美しいものを美しいと感じる」

美的感性を磨き、

その感動体験を生徒にありのままの表現で伝えることが

いかに大切かということがわかってくる。

 

「生活者の視点から生きた知識を創る体験的社会科研修」とは何か 4

 

5.説明力を強化する

社会科の授業はこれから先、

生徒主導型で、話し合い重視の流れが濃厚になると思うが、

入試や進度のことを考えると一斉授業が基本型であることに変わりはないと思う。

一斉授業では教師が説明するケースが多い。

生徒は集中力が持続せず、

理解力が低下していることを前提にした場合、

教科書に記述されている内容を膨らませ、

わかりやすく、着眼点をはっきりさせ、

生活に結びついた具体例を取り入れるなどしながら

生徒が興味を持てるように説明しなければならない。

また生徒主導型の取り組みにもっていくためにも

日頃から教師がお手本となるような姿勢を示す必要がある。

 

 

 

説明力を強化するための参考例二つ

・博物館のボランティアガイドの説明を参考にする。

特に歴史的事象の説明がわかりやすい。

その際、生徒目線でガイドの説明に対して謙虚に耳を傾けるようにする。

・タクシーの運転手の生活実感あふれる説明を参考にするなど。

(現在、タクシーの運転手は難しい地理の試験に合格して採用されるといわれる。

その地域限定の生きた地理の知識、

そして最新情報の持ち主はタクシーの運転手であるといえる。)

授業展開によっては限られた時間で一部分の内容を要約し、

社会的事象の数々や

地理、歴史の重要語句を説明しなければならない場面がある。

例えば1分から3分前後でポイントをおさえ、

語りかけるようにその意味や概要を説明できる能力を磨かなければならない。

なぜならさまざまな学力レベルの生徒が一つの教室に集まっているということと

授業時間は50分と限られているからである。

その説明をもとに適宜、生徒に思考をうながす発問をし、

考えさせ、自分の言葉で表現する時間も確保する必要がある。

概念的、抽象的な知識の場合は、

一方的な説明で終わらせず、

具体的な事例や生徒の学力のレベルに合わせて

クイズを用意しながら理解に導いていく方法がある。

 

また生徒に話し合いをさせる時に話題を膨らませ、

軌道修正させ

適切なヒントやアドバイスを与えるなど、

状況に応じて発揮されるアドリブ力も身に着けたい。

私は正規の教師を60歳でいったん退職した後、

通訳案内士(英語)の活動を視野に入れ、

今その資格をとるための受験勉強の真最中でもある。

その1次試験の受験体験でわかったことであるが

受験科目の英語、日本地理、日本歴史、一般常識にわたる広範な知識

(本にすれば千数百ページ)を暗記するくらいの勢いで学習して

ようやく一次試験に合格できた。

しかしその知識は貴重で、

その広範な系統的知識があれば

クラスの実態や学力のレベル、諸単元のテーマの違いに応じても

全体を広く見渡す状態から

その知識を活用することができるということがわかった。

さらに日常的に幅広い読書と今回の体験的研修も含めて、

蓄積された知識の引き出しを多様な授業展開の中で出し入れし、

生徒の反応を見ながら練習と改善を繰り返す中で

説明力は磨かれていくことを実感している。

また、常にアンテナを高く張り、

複雑で変化の激しい社会の動向に合わせ

最新の知識、情報を得るように努めなければならない。

新学習指導要領で示されている新しい学習スタイルにも即対応し、

いつでも生徒に模範を示すことができるプロ意識とは

このような切磋琢磨があってこそ高められることも付け加えておきたい。