「生活者の視点から生きた知識を創る体験的社会科研修」とは何か 1

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次に今回の実践報告書のテーマで研修の最大の特色でもある

「生活者の視点から生きた知識を創る体験的社会科研修」とは何か、

その意義や授業づくりへの活用方法などについてもう少し細かく具体的に説明したい。

 

研修に臨む姿勢

  • 生徒のロールモデルになろうとする意識を持つ(生徒の模範になる)
  • 知れば知るほど自分は無知であるという自覚を持つ(生徒と一緒に学び続ける)

 

生活者の視点とは

生活者の視点とは人間の営みや人々のくらしにスポットをあてることである。

地理的分野で言えば自然条件によって左右される

その地域ならではの生活のようすや衣食住に注目する。

なかでも「食」に関しては農業や漁業の生産地域との関係が深く、

具体的事例、実物教材を通して

私たちの生活にとって身近なものとしてとらえやすくなる。

「住」に関しては「住みやすさ」「便利さ」の視点が大切なポイントとなる。

(各都市に人口が集中し、発展していくようすを見る。)

歴史的分野で言えば、生活者の視点がいかに大切かの

いちばんわかりやすい例を示してくれるのが

『江戸のリサイクル社会』である。

ここには日本の将来の生活の姿はどうあるべきかの

豊富なヒントがちりばめられている。

 

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江戸リサイクル社会における

江戸の人々の貧しくても豊かな暮らしぶりを

授業でも使える豊富な事例を交えながらわかりやすく解説

かなりのおすすめ本です。【小学館新書】

 


また、その時代の人々のくらしのなかで

特徴的な衣食住の生活や経済、流行している趣味、娯楽、信仰、生活文化に光をあてる。

例えば江戸の庶民が美しい浮世絵を求め、

歌舞伎役者の派手な衣装で着飾った洗練された演技に憧れたりすることも含まれる。

 

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歌舞伎「助六」あでやかな衣装の女形   2009年10月撮影 江戸東京博物館


このような人々の喜怒哀楽の生活のようすや時代の移り変わりとともに

生活が変化するようすにも着目しながら、

過去の人々の生活から

日本の将来をどのような社会にしていったらよいかのヒントや教訓を

具体的に探っていくようにする。

さらに生徒に歴史的偉人が送った少年時代、青年時代の生活にふれることにより

その人物により親近感が湧き、

その生き方を自分にあてはめて考えるようになる。

こうして生活者の視点からアプローチすることによって

現在の私たちの生活との結びつきや違いをはっきりさせながら、

生徒自身の問題として興味をもたせること

ができるようになり、

やがて未来志向でものごとをとらえることが大切なことだということがわかってくる。

 

生きた知識とは

1)その知識を得ることによって面白さを感じ、学問的探究心にもつながる知識。

2)日常生活と結びつき、生活実感を大切にする知識。

3)将来の社会生活に役立つ知識。

4)未知の世界を知ることによって驚きや喜びを感じとれる知識。

暗記的知識でない生きた知識を習得する授業は面白い。

   また生活者の視点から生きた知識を習得し、

これから先「社会の一員としてどのように生きていけば良いか。」

さらに新旧の学習指導要領でも強調されている

「社会で生きて働く知識」、「市民性の育成」、「生涯学習

そして「社会参画」へとどのようにしてつなげていけるのかを

常に意識しながら研修をすすめていくように心がけている。

生活者の視点から「生きた知識を創るための体験」とは

 上にあげた生活者の視点を意識しながら次の5つのことを必ず念頭に置いて

私は「生きた知識を創るための体験を重視する」研修及び教材の発掘をおこなっている。

 

 1.授業で使える資料を収集する。

博物館や資料館では必要であればガイドブックを購入する。

閲覧室や図書室がある場合は関連する資料の中で

授業に使えそうなものがあったらコピーする。

(文献資料、絵画資料、近現代史に関しては良質な写真資料が多い。

絵画資料や写真資料は直感的な発見や生活実感をともなうものが多いので

生徒の発言を引き出させやすい。)

無料で入手できるパンフレットなど

現地で印象に残った景色、建造物、文化財(撮影OKのもの)を写真撮影する。

  

心に留めておきたいこと

・インターネットの検索による資料活用は効率的で便利だが、

その情報・知識は玉石混交である。  

自分が現地に足を運んで苦労して得た資料と

その活用は安心感と手作り感がある。

   

2.見学と観察

「生活者の視点」を意識しながら史跡や名所などをめぐるときは

必ず五感を使って、

教師の目線ではなく、好奇心旺盛な中学生の目線

(生徒と一緒に学習するような感覚)で見学するようにする。

観察とは比較する点、共通点、相違点などをはっきりさせ、

遠くや近くから社会的事象や見学対象の事物、建物や景色、

地域住民の行動などを注意して見ることである。

 

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2010年撮影 隅田川築地付近からとった水辺の景観

左手奥に見える高層ビルが大川端リバーシテイの先端にあたる

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2009年東京湾漁業視察研修 築地から少し先

隅田川から東京湾へつながる運河からみた水辺の景観

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大川端リバーシティ21

近くに佃島があり松平定信寛政の改革で実施された

「人足寄場」があったところでもある。「大川」は隅田川

江戸時代に使われていた名称。

あとで地図を見ながら経路をたどりながら

「水の都」でもあった江戸時代のころのようすがリアルに

頭に浮かんでくるように資料を調べるようにする。

 

 特に史跡関係は想像力が欠かせない。

過去と現在の姿を比較し、

その経過をたどることによって見えてくるものを大切にしたい。

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歌舞伎座(東銀座):老朽化し2009年撮影→ 高層耐震建築の「新歌舞伎座」へと生まれ変わる 2020年7月撮影

ここは江戸時代の芝居小屋(森田座)があったところに近い。その周辺銀座や日本橋のようすが

JIN「仁」の映画ではないが江戸の人々の生活の様子とともにリアルに頭に浮かんでくるように資料を調べるていくようにする。 ちなみに築地はここから徒歩約10分の至近距離にある。

 

印象に残った事象・対象物は必ず写真撮影し、

授業中にA4版に印刷した写真を適宜見せ、

上記の博物館で入手した視覚資料とともに

体験談を交えながら1~2分以内で説明できるようにしておく。

 

 必ず実践すること

 ・見学地に関する事前事後の学習・研究(教材作りに欠かせない過程)

・・・続く