「生活者の視点から生きた知識を創る体験的社会科研修」とは何か 9ラスト
さいごに
この原稿を書いている現時点のことであるが、
私は今年8月実施予定の通訳案内士の資格試験をめざして受験勉強中である。
昨年度の試験は2次試験不合格となり、再挑戦することにした。
その勉強をしていてわかったことであるが、
参考書や関連書籍を使用しての勉強が楽しくて、
とてもやりがいがある。
たとえ合格できなくても毎年受験生気分を味わいながら
新しい設問に挑戦することができる。
私にとって通訳案内士の資格試験を受験すること自体が趣味のようになってしまっている。
もちろん同時並行して
ボランティアガイドへの準備も怠らないようにしている。
自分の英語力にあわせていつのことになるか今のところ不明であるが、
訪日外国人に日本の美しい自然、
皇居、六義園などの日本庭園、江戸東京博物館、国立博物館などを
少しでも魅力的に案内できることを夢見ながら会話練習などに励む日々である。
さて、もうすでに私は社会科教師の職を退いてしまった。
にもかかわらず、このように学ぶ意欲がいっこうに衰えない。
なぜなのだろう。自分自身に問いかけてみた。
人はそもそも年齢に関係なく、新しい知識を得ることが面白く、
未知の世界をもっと知りたい、発見したい、
探求したいという欲求を本然的に持っているのではないか。
これはまぎれもなく知的好奇心のことではないだろうか。
振り返ってみれば今回の5日間の夏休み研修が成功したのも
この汲めども尽きぬ知的好奇心が私を終始駆り立ててくれたからである
と言っても過言ではない。
私はこの研修中、最初のうちは一介の引退間近の社会科教師として各地を廻っていたが、いつのまにか心は知的好奇心が旺盛な中学生のようになっている
自分に気づくようになった。
生徒にもこのような知的空間が漂う体験をさせてあげることができたら
どんなにいいことだろう。
今回の生徒一人一人の読書体験の感想を読んでみても
その思いは強まるばかりである。
それでは生徒のこの知的好奇心を引き出し、
育てるために今、教師は一体何をどうしたらいいのだろうか。
今回の体験的研修の締めくくりとして以下提案をしたい。
①教師は知的好奇心を旺盛にすること。
机上研修だけではなく、
生活者の視点から生きた知識を創る体験的研修から得られることを
日頃の授業に反映させながら
教室の中に知的雰囲気のある空間
(知識を得ることが面白い、未知の世界をもっと探求したいという世界をつくる)
をつくり出していけるように努めること。
②教師は大の本好きになること。
そしてこれまで本稿で紹介したような
様々な機会を適宜作りながら、
生徒自らの意志で本を読む習慣をつくっていけるように
働きかけること。
①と②を日常的に推し進めることによって
生徒は新たな疑問やもっと探求(探究)したい課題を次々と発見する。
その解決のために本を読む。
また興味を持った事柄に関しても
もっと物知りになりたいという欲求が働いて本を読む。
やがて好きな作家や得意分野の作品にも目を向けるようになる。
そしていつのまにかたくさんの本を読む習慣が身についてくる。
①と②の相乗効果によって、常に知的好奇心が触発され、
生徒一人一人がさまざまな学習活動を主体的に行うようになり、
最終的にはそれぞれの「学び」を深めていくことができる。
①と②の取り組みは現状では教師が多忙で
軌道に乗せるのは相当困難であるということを承知の上で提言させてもらった。
教師本来の業務である教材研究や授業づくりに集中できるような環境が
一日でも早く整うことを願うばかりである。
これからの社会は超高齢化や地球温暖化そして情報化がすすみ、
AIが幅を利かせる変化の激しい予測が困難な社会を迎えることが予想される。
生徒たちは今、ちょうど14歳の思春期に置かれている。
感受性が豊かで、
より深く自分をみつめながら、
社会にも目を見開いていく年頃である。
この今の時期だからこそ
生徒一人一人がこの知的好奇心を原動力にしながら、
持続可能な社会の実現に向けて
さまざまな環境の変化にも対応して
学びを深め、
自分の内面を充実させ
自分の選んだ希望の道を逞しく切り開いていってほしい。
私はその成長する姿をあたたかく見守っていきたいと思う。
参考:今回の研修対象都市の現在の推計人口 2020年現在
東京23区(957万人) 横浜市(374万人) 大阪市(275万人)
名古屋市(232万人)
川崎市 (153万人) 神戸市(152万人) 京都市(146万人)
東村山市 ( 15.1万人)飯能市( 7.9万人)熱海市( 3.6万人)
主な参考文献
新学習指導要領中学校社会科編 文部科学省
中学校新学習指導要領 社会の授業づくり 原田智仁 明治図書
知識の構造図 北俊夫 明治図書
中等社会科の理論と実践 二谷貞夫・和井田清司 学文社
長い長い報告書お読みいただきありがとうございました。
少しでもこのブログの内容を活用していただけると嬉しいかぎりです。!
完