「生活者の視点から生きた知識を創る体験的社会科研修」とは何か 7

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中学生にすすめる社会科関係の本を探す

生徒に授業以外の日常生活で本を読む習慣を身に着けさせるためには

まず教師自らが中学生向けの興味をもって読めるような本を探して

それらを紹介しなければならないと思うようになった。

私は2019年の夏休みに計6回にわたって

池袋、新宿、立川の大型書店で新書を中心に探してみた。

学校の授業で得た知識をもとに中学生でも理解できる内容が面白く、

学習にも役立ちそうな本を地理や歴史関係を中心に探した。

新書といえば私が学生の頃はまだ、I社の新書が主流で、

学問的な匂いがするものばかりだった。

しかし現在は、驚くべきことに新書だけでも

100前後の出版社からさまざまな本が出版されている。

今回の本探しの研修で中学生でも理解できる面白そうな社会科関連の本が

けっこうたくさんあることがわかっただけでも大きな収穫だった。

この新書に関しては一覧表にして、

2学期の中間考査後の10月中旬に本校の図書館司書に渡した後に生徒に配布した。

これで今後私が過去読んで感動した本も紹介しやすくなった。

文庫本も新書以上に紹介したい本がたくさん埋もれている。

歴史小説で言えば歴史ロマンを感じさせてくれる

司馬遼太郎や緻密な取材で定評のある吉村昭の作品群など)

 

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花神』は司馬遼太郎の著作のなかで私がいちばん好きな

作品。

『冬の鷹」吉村昭 は「解体新書」翻訳の立役者 前野良沢

孤高の蘭学者として貫き通したその生涯を

杉田玄白の生き方と対比させながら見事な筆致で描いている。

 

文庫に関しても50冊程度の推薦図書の一覧表にして、

私のおすすめ10冊の推薦文のプリントといつでも提出できるように

読書感想が書ける罫線の入ったプリントも添えて年明け以降に配布した。

その後、3月2日から新型コロナウイルス感染症に伴う臨時休校により

突然授業打ち切りとなってしまった。

これまでの読書への取り組みはこのまま消化不良で終わってしまうのだろうか、

私の長い教員生活の結末がこんな形で終わりを迎えてしまうのかと

かなり気持ちが落ち込んでいたところ、

終業式前に数名の生徒が自主的に読書感想文を届けてくれた。

目頭が熱くなり、目の前がパッと明るくなったような気分になる。

早速、私の推薦図書一覧表(文庫用)の中の一冊『津田梅子』

(新5000円札の顔となる人物)〔大庭みな子〕

を読んだ生徒の感想文の一部を紹介したい。

 

「津田梅子が1度目に帰国した頃日本は男尊女卑の考え方が根強かった

という事にまず驚いた。

でも日本で様々なギャップを感じつつ、

女子教育のための活動を、

自分の考えを曲げることなく続けていてとても偉大な方だと感じた。

・・・昔の時代に津田梅子のような人が変えてきたことを、

現代・未来へとよりよく、より暮らしやすく変えていくために

私たちがもっと深く知って考える必要があると思った。・・・」

 

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   津田梅子 大庭みな子 朝日文庫 2021年3月撮影 

 

今回の読書への働きかけから見えてきたこと

日頃の興味・関心がスマホには向かわず、

活字のインクの匂いにさそわれ、

ページをめくりながら読み進めるほどに夢が広がる。

 

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中学校3年生のとき面白くて徹夜して読み通した『大地』

パールバック 高校1年2年は本の虫になってしまった私。

 

このような読書体験路線を

他教科との連携も視野に入れ、

中学生の段階で定着させることができれば繰り返すようだが、

生きた知識を活かした授業の中で

思考力、表現力、コミュニケーション能力などを

高める上での確固とした基盤をつくることができる。

読書の効用はそれだけではない。

人生観、世界観が広がり、

情緒力、想像力を育み人格形成にも大きな影響力をもたらす。

彼らが継続的にこの流れに乗り、

自らの知的及び心の成長の軌跡を示しながら

高校、大学進学へと着実にステップを踏んでいく。

大学進学の場合、専門分野の履修の前に、

リベラルアーツ(人間としての教養)を学ぶ際も、

日頃から知的体験や読書習慣がある程度身についている彼らにとっては

この新たな潮流に抵抗なく身を任せながら幅広い教養を身につけ、

学術書にも目を向け、自己形成を促進させていくことができる。

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昭和49年 大学時代神田神保町の古本屋街で手に入れた2冊の本

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『風土』 和辻哲郎 p43  沙漠  なつかしい! インクの匂い!

世の中ペーパーレス化して、このような知的興奮を味わう機会

がなくなってしまうなんて本当におかしいと思う昨今です。

 

また、新学習指導要領が求める「学びに向かう力、人間性の涵養」への道筋も

この方向へ舵取りすることによって

よりはっきりと見えてくるものがあるのではないだろうか。